常日頃から考えていたことが在ります。
それはわたくしにとり、オリヴィエ・メシアン作品の中核を成す物は、
やはりカトリック信仰から紡ぎだされる豊かな楽想である事。
元々は旋法研究から入った氏の音楽性に内包されるそれらへの想いの高まりは
自分の中で日に日に強まり、数年がかりで熟考した結果、自分の専門領域を
「オリヴィエ・メシアンに於けるキリスト教作品内のM.T.L旋法」として
研究を絞ってゆこうと考えています。
そこで、メシアンが1977年にノートルダム大聖堂にて宗教音楽の講義を
行なった際、大聖堂の首席司祭兼祭式者であらせられた
ジャン・ルヴェール司祭のメシアンに対しての紹介文を引用しようと思います。
「(中略)メシアンの才能と、とくに彼の深い信仰、これらすべての源泉に感謝せよ。
その源泉はまたとないオリヴィエ・メシアン特有のものであり、帰する所、
汎神論的(註)な印象を超えるものではないが、正真正銘それはキリスト教の祝典、
托身の祝典、もっとも豊かな秘跡の表現、聖餐式の中に収集され組み込まれたものである。
この神秘は彼の最初のオルガン作品《天上の宴》(1928)の対象であり、それから56年後の
《聖体秘跡の曲集》(1984)において提示された神学的かつ音楽的な総和の中で完成をみる。(中略)」
さて、上記のノートルダム大聖堂の首席司祭様の紹介文にある《天上の宴》(1928)とは、
メシアン19歳にて、パリ音楽院在学中に創作された初期のオルガン作品です。
同年書かれた《ピアノのための前奏曲集》(1928-29)よりも、
恐らく先に書かれたものではないかと推察します。
《ピアノのための前奏曲集》(以下、プレリュード集)への作曲者自身の記述が
在ったことは、二年前の研究発表で述べましたが、再掲しますと以下です。
「私は既に音色(おんしょく)の音楽家だった。「或る回数だけ唯一移調できる響きの旋法」(M.T.L旋法)を用い、
独特なそれらの色合いのお陰で、「色彩の円」の対極に達し、虹を交錯させ、音楽の中に“補色”を見出した。」
この頃から既に氏は「M.T.L旋法(移調の限られた旋法)」を用いた創作を
確実に意識していました。
その軌跡を追いつつ、この作品も初期のメシアン作品の重要な位置づけとして
認識しています。
• 註 汎神論:
すべてのものに神が宿っているとしたり,一切万有の全体がすなわち神であるとしたり,
総じて神と世界との本質的同一性を主張する立場。
(大辞林 第三版より)
赤坂樹里亜
Le 20 janvier 2014 16h27