オリヴィエ・メシアンの名が世に認知されるきっかけとなった作品は、
この《忘れられた捧げもの》(1930)ではないでしょうか。
(メシアン22歳の初期作品です。)
わたくしは初めてこの作品と対峙した時、カトリック文化を全く存じ上げず、
このタイトルの表す「捧げもの」はどのように「忘れられた」のか、
何もかも作品の背景が解りませんでした。
しかし昨今見直し、ようやくその意図がおぼろげながら見えてきたように思います。
この作品は全3曲から成り、下記のようなタイトルを持っています。
1. 《十字架》 : 「弦楽器の嘆きに、灰色とモーヴ色のうめき声」を思わせる作品との事。
2. 《罪》 : 「危機へ警告的に、トランペットの警笛が鳴り響く。」
3. 《聖体の秘跡》 : 「Vn.の緩やかなフレーズは、弦楽器の光の中に、赤と金、青
(遠くのステンドグラスの様に)と共にピアニシモの弦楽器の
絨毯(じゅうたん)の上に立ち上る。」
そしてメシアンはこの3曲を語ります。
「《罪》は神の忘却である。《十字架》と《聖体の秘跡》は神による供物である。:
“これはあなた方に与えた私の身体、これはあなた方に注がれた私の血である。”
なるほど、これはカトリック・ミサの「聖体拝領」を背景として、以下の事柄を
紡いだ作品だったのですね。
《十字架》即ちキリストの犠牲によって世の罪が取り除かれたことの象徴、
(これは余りにも一般的なお話ですが。)
《罪》、これは刑法上の罪(Crime)でなく、宗教上の罪(Peche)という単語を用いて、
人々が利己的な罪へと傾く事への警鐘を鳴らした作品かも知れません。
そして最終曲では、ミサでの「聖体拝領」によって、犯した罪が清まり、俗世間へと
派遣されてゆくカトリック教徒の慣習を表したものでしょうか。
こう考えてゆきますと、初期のカトリック作品として、大変興味深く、
また一層自分との距離感が縮まったように思えます。
《三つの小典礼》(1943-44)の約14年前に書かれたメシアン作品に、
《三つの小典礼》へと繋がる何かが見えるとよいです。
赤坂樹里亜
Le 10 mars -14 15h11