【O.Messiaen《Eclairs sur l’au-dela》(1987-1991) pour grand orchestre】

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 本年2017年は、第2次世界大戦終戦後の大オーケストラ作品
《Turangalila symphonie -トゥーランガリラ交響曲-》(1946-48)を
研究してゆこうと決定した事から、上記作品を視るに当たり、
他の大オーケストラ作品も自ずと視野に留まってきます。
そこで思い巡らせたのは下記の事項です。
私は「O.Messiaenの〈カトリック作品〉」を専門としようと決意した中で、
最晩年の大きな作品《Eclaires sur l’au-dela》(1987-1991) 》の優先順位を
先延ばしにようと感じていたのは、やはり落ち度であるのだと。

 この作品は1987-1991にかけて書かれた大オーケストラ編成であり、
1992に亡くなった氏にとり、前述の如く「最晩年」の作品であると言えます。
氏の後期作品は編成もセオリーも難解極まりなく、私には未だ未だ手掛けるのは
先であろうと感じていました。
しかし去る2017年1月31日にこの作品をSuntry hollに鑑賞に行った折から、
「昨今とみに」上記作品の世界観が私の内面に染み込んできた次第です。

 私がこの作品をはじめてライブ鑑賞させて頂いたのは、2008年4月18日
「東京芸大プロジェクト’08 メシアン生誕100年」での
藝大フィルハーモニア、湯浅卓雄氏指揮によるものでした。
第一印象は、全11曲から成る各曲は、かなり編成がブロッキングされて
使用されているという点でした。
第一楽章は管楽器群による静寂の奏楽に始まり、他の楽器群は始終全くの
ゲネラルパウゼによる待機、また或る楽章は弦楽器のみで、
他者はやはりゲネラルパウゼ、という具合です。
どの様に意図してそう書かれたのかは、2008年当時の私には考えが
浮かびませんでした。

 しかし昨今再度この作品を拝聴する機会に当たって、この作品の持つ
深淵なテーマが、ようやく少し視えてきました。

 さて、上記では原語で書き表していたタイトルについて、邦訳を試みたいと思います。
《Eclaires sur l’au-dela》とは、《彼方の閃光》と訳される事が一般的だと思います。
この「au-dela」という語は、副詞としては「向こう側」、或いは
「(時間の)その先」等の意がありますが、
これに定冠詞が加わり「l’au-dela」、即ち名詞となれば、
「彼岸」、「死後の世界」という意となるのです。
約一年後に逝去する事になるメシアンの、或る意味仏教用語的ではありますが
「悟りきった境地」で書かれた「カトリック世界の風景」を、
我々はここに見る事が出来ます。
「作品データの翻訳」は、また記事を改めて記述しますが、
私の注視した点は、「第6楽章 7つのトランペットと7人の天使」です。
これは、まさしく新約聖書「ヨハネ黙示録」8章1-2節に現れる以下の個所を
彷彿とさせます。

「8-1. 子羊が第7の封印を開いた時、天は半時間ほど沈黙に包まれた。
 8-2 そして、私は7人の天使が神のみ前に立っているのを見た。
彼らは7つのラッパを与えられていた。」
(『新約聖書 詩編つき』 新共同訳 P461 8章1-2節)

また、《時の終わりのための四重奏曲》(1940)も、何度も述べましたように、
「ヨハネ黙示録」からのインスピレーションによって、ナチスの捕虜時代に
収容所内で書かれた作品であり、殊に第7楽章には
「時の終わりを告げる天使のための虹の混乱」が存在します。
この当時は収容所内の捕虜たちの切迫した命の危険と隣り合わせの
恐るべき生活の中で書かれた作品であるという事は、周知の事です。
しかし《彼方の閃光》内の「第6楽章 7つのトランペットと7人の天使」では、
音楽語法の上では東南アジア的民族音楽を採り入るという、中期以降の創作の
技法を取りながらも、この楽章は「何か穏やかに死期を受容し、迎えを静かに待つ」
氏の姿がまぶたに浮かんではこないでしょうか。

 またその他の特徴として、第二楽章のタイトルに、「第二楽章 射手座」と
在るのが目に留まります。
ここで私が回想するのは、クロ-ド・サミュエルとのインタビューです。
サミュエル「無限の色彩の中で、最もお好きなのはどのあたりですか?」
メシアン「将来、すみれ色(紫)に傾倒しています。射手座の星の生まれですから、これは正常な現象なのかもしれません。」(『オリヴィエ・メシアン その音楽的宇宙』音楽之友社 クロード・サミュエル著 P52 L17-19)
即ち氏は、「自身の出生(射手座のもとに「生まれた事」)」を意識し、
更には「やがて時の終わりを告げる天使に導かれ、帰天してゆく」という、
一連の自身のいわば「生から死まで」を思い巡らせていたのではないかと、
この「最晩年」の大オーケストラ作品から読み取ることはできないでしょうか。

 最晩年のオケ作品といえば、その一つ前に《Un sourir -微笑み-》(1989)があります。
この「Un」という不定冠詞から思うに、「特定の誰か一人の微笑み」でなく、
不特定多数の皆の「微笑み」を思い浮かべ、晩年に達観しきったメシアンは、
「人類の安寧」にただただ想いを巡らせていたのでしょう。
母の早逝も、第2次世界大戦勃発時に精神の病を発病した先妻の闘病と死去も、
同大戦時のゲルリッツ収容所での捕虜としての幽閉生活の絶望も、
全て達観し、人々の幸福を祈り、やがて天に召されていった
氏の姿に、深く敬服を感じます。

 この記事はこれで閉めさせて頂き、後ほど記事を改めて
「作品データの翻訳」を記述したいと思います。
ご高覧、有難う御座いました。

Julia.T.A
Le 13 fevrier 2017 12h33

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