去る8月15日から17日までの三日間で、この《Harawi》全12曲の
翻訳を終えました。(* 申し訳ありませんが、訳文はこちらには掲載致しません。)
テクストの内容は、間違いなく日に日に容態の傾く精神の病を持つ
先妻クレール・デルボスへの想いが詰まったものでしょう。
先行研究では「古代インカ帝国の男女の悲恋の物語を詠ったもの」とありますが、
わたくしの考察としては、若干異なった感があります。
これは、やはりクレールへの愛と同時に、やがて彼女とは死別するだろう事を
薄々悟ったメシアンが、「ピルーチャ」という女性主人公を創り出し、
更にはその舞台を古代インカ帝国へと移した上で、愛する人の死を作品上で葬送し、
また、その復活を夢想しながら物語を創り上げてゆく
ドラマトゥルギーが、そこに存在しているのではないかと憶測します。
女性「ピルーチャ」への問いかけや呼びかけは、テクスト上に多々ありますが、
男性側の客観的描写はほぼなく、テクストを語っている主格は、
メシアン自身であったのでしょう。
第1曲目は《La ville qui 「dormait」, toi -眠りし街、汝よ-》と、
この「眠りし」の動詞時制が半過去形となっています。
これは過去の継続した状態を表すものですので、この「眠りし街」は、
もしかしたら「遥か昔に滅亡したインカ帝国」を暗喩しているのかも知れません。
最終曲の12曲目《Dans le noir -闇の中-》にも、やはり《眠りし街、汝よ》の旋律が
一部使用され、最終文では、また「眠りし街よ…」と、原点に回帰してゆき、
曲を閉じます。
更にテクスト中、背景の「古代インカ帝国」で話されていたという
「ケチュア語」の語感を夢想しながら書かれたであろう
メシアンの造語も多々散見されます。
先ずは、第4曲目の《Doundou Tchil -ドゥンドゥー・チル-》の冒頭。
これは印象に残るSop.による「語り」です。
(中間部のSop.の旋律は、やはり美しい「M.T.L旋法」の響きです。)
他にも「トゥングー、トゥングー、マパ、ナマ、マパ、カイピパス」など、
「ケチュア語」に似せた音声を創り出す事も、メシアンは積極的に行っています。
これは「言語として意味や意思を伝達しようとする」言葉でなく、
舞台背景を醸し出す為の、「音声を重視した造語」でしょう。
この点も、大変興味深く思います。
帰宅してから、すっかりと「とり憑かれたように」《Harawi》を聴き続け、
テクストの考察を行いました。
その結果、本題の研究中である《神の顕在の三つの小典礼)》(1943-44)の
テクスト翻訳にとって、随分と有益な事が沢山掴めた様に思えます。
《三つの小典礼》(1943-44)の翌年に書かれた《Harawi》(1945)のテクスト翻訳は、
わたくしにとり、大変収穫をもたらせてくれました。
赤坂樹里亜
Le 22 Aout 201311h37