先日は秋晴れのもと、京都及び奈良への小旅行に行って参りました。
京都御所を見学したあと、秋深まる奈良公園を散策しながら、
沢山の鹿と人とが戯れる姿を微笑ましく眺めておりました。
同時に「奈良公園」と言えば、わたくしにとり最も想像を膨らませる
事柄は、ただ一つです。
O.Messiaenの『Sept Haikai -七つの俳諧-』(1962)の第2曲目に
ついて、様々想いを巡らせておりました。
御周知の通りこの作品は、Messiaen氏が日本を訪れた際に
実際に目にした情景を「ピアノと小オーケーストラ」という編成を
用いる事により、7曲に渡って表現された作品です。
タイトルにも「Haikai(俳諧)」という日本語単語がそのまま
用いられている事からも、Messiaen氏は日本特有の俳句に関しても
何かしら御存じの親日家であった事が伺えます。
では、この作品の背景を少々ご紹介したく思います。
メシアン氏は後妻イヴォンヌ=ロリオと再婚した(1961年)折に、
日本旅行に赴いたとのちのインタビューで語っています。
これは、時期的に殆ど新婚旅行のようなものであり、お二人はすっかり
日本を気に入り、畳の上で寝ては、すき焼きやてんぷらを
食べることしか考えなかったといいます。
その際訪れた「奈良公園」や「宮島」、そして「軽井沢」などの
「日本の地」ですとか、「雅楽」を鑑賞した際の
「日本滞在の美しい想い出」を、フランスに帰国したのちに回想し、
「七つの想い」として綴ったものが、この『Sept Haikai -七つの俳諧-」となります。
(この作品には「Esquisse japonaise -日本のスケッチ-」との
サブタイトルが付されています。)
そしてこの第2曲目に位置するのが『奈良公園と石灯篭』という
約2分間の作品になります。
メシアン氏の眼で観た「日本の奈良公園」とは、どのようなものだったのでしょう。
以下が、氏がインタビューで語った、当時の「奈良公園」の在りようです。
O.Messiaen「奈良にはいくつもの仏閣があり、その周囲の庭には
千古の巨木が立ち並び、それらの樹木はアメリカの松柏科のセコイヤを
思わせますが、杉なのです。
そしてその庭園には雌鹿や雄鹿や小鹿が自由に歩きまわっていて、
怖がらずに人に近づいてきます。
奈良にはまた石の灯籠があって、中央に穴の開いた大きな石灯篭が
通りに沿ってずっと立ち並んでいます。
普段は点火されていませんが、これらは奉納物、つまりどこかの家の
何等かの神性への感謝のしるしなのです。
石灯篭は何千となくあるので、その光景は誠に印象的です。」
(『オリヴィエ・メシアン その音楽的宇宙』 クロード・サミュエル著
音楽之友社 P130 L8-L13 より引用)
恐らく今から50年ほど前に奈良公園を訪れたメシアン夫妻。
「お二人が感じた奈良公園」に敷き詰められた砂利を、わたくしも
数日前に一歩一歩踏みしめて参りました。
秋に染まる「奈良公園」は、静かにこの50年間の月日を重ねてきたのでしょう。
赤坂樹里亜
追伸: 動画は『七つの俳諧』のうち、最初の3曲が収録されており、
約1分40秒の個所から第2曲目の『奈良公園と石灯篭』が始ま
るようです。